大阪地方裁判所 昭和22年(ワ)787号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事實)
原告は、土地賃貸等を目的とする法人であつて、木津川の東岸に第二目録記載の土地百二十五坪四合四勺、これに接続してその東側に第一目録記載の土地三百坪、更にその東側に第三目録記載の土地五十四坪七合九勺を所有し、第一目録の土地を被告山口に、第二、第三目録の土地をT合資会社にそれぞれ賃貸していたが、被告山口は第一目録の土地を被告T合資会社に轉貸し、被告T合資会社はその後組織を変更して被告T株式会社となり、第一乃至第三目録の全土地を占有使用し、また第三目録の地上に工場を新築しはじめた。
原告は被告T合資会社に対しては各賃貸借契約の期間満了、解除又は解約による終了にもとずいて各土地の明渡を求め、被告T株式会社に対しては所有権侵害を理由として建物工作物等の收去と土地の明渡を訴求する。
(判斷)
原告敗訴。爭点はきわめて多いから、主要な爭点に対する判断のみを掲げておく。
判示事項一、原告は第二目録の土地につき借地法の適用がないことを前提として、土地賃貸借契約が存続期間満了により消滅したと主張するが、「被告山口は大正十四年八月十九日第一目録の土地をその地上に工場を建設所有する目的を以て木造建物の敷地として使用收益する」という約定で原告から賃借してその地上に工場を建築し、昭和十年頃右工場及び設備とともに右の土地を被告合資会社に工場敷地として賃貸し、被告合資会社は山口からの右賃借工場を使用すると共にその残地に自ら建物を建設使用し、原告はこれを默認していたが、被告合資会社は更に昭和十二年八月十四日右第一目録の土地三百坪の西方にこれと隣接して木津川沿いに位置する第二目録の土地百二十五坪四合四勺の船舶の修理と小型船の建造を行う右第一目録記載の土地上その他の工場を利用するために、荷揚げ及び積荷をする目的を以て原告から賃借し、また昭和十六年九月三十日右第一目録の土地の東方に隣接する第三目録の土地の東方に隣接する第三目録の土地五十四坪七合九勺を「現存建築以外は仮令一時的のものと雖も其地上に工作物を設置しない」約束で原告から賃借したが、同年十月三十日その賃借目的を堅固な建物以外の建物の敷地として使用することに変更し、右三土地を一体として使用していたことを認めることができる(中略)。そうすると被告合資会社は右第一目録の土地につき原告の默示の意思表示による承諾の下に建物所有のための轉借権を有しており、又右第三目録の土地についても同樣目的の賃借権を有しておるもので、右両地につき借地法第一條に所謂「建物の所有を目的とする賃借権」を有することは明かである。そして同條に所謂「建物の所有を目的とする賃借権」たるがためには、必ずしもその建物の全部又は一部がその借地の上に基礎を置くことを要するものではなく、隣接地の建物を利用するために他の土地を借地し、これを一体として使用するような場合の賃借権をも含むものと解するのを相当とするから、右の事実関係の下において被告合資会社は隣接第一目録地上の工場を利用するため、木津川から荷揚げし又積込みを行う目的を以て借受けられた第二目録の土地についても亦「建物の所有を目的とする賃借権」を有するものであり、従つて別紙目録の全土地につき借地法上の借地権を有するものと解しなければならない。」よつて借地法の保護を受ける。
判示事項二、「被告山口は昭和二十年七月七日及び同年九月二十五日附書面を以て原告から昭和十九年十二月一日より昭和二十年十一月三十日迄の地代として七百二十円(一ケ月一坪三十錢)の支拂を催告されて同年十一月三十日これを支拂い、更に昭和二十年十二月一日より昭和二十一年五月三十一日迄の地代として三百六十円の支拂を催告されて同年一月八日これを支拂つていること、被告山口は地代を持参前拂することになつてはいたが、事実は原告側からの集金に應じその支拂をして來たものであり、前記地代の請求額は原告会社において公正証書によつて地代額を算出する際坪三十五銭とあるのを、坪三十銭と誤算したものであることをそれぞれ認めることができる。原告はこの行爲に被告山口が被告合資会社及び被告株式会社に対してこの土地を轉貸した点をあわせて原告と被告山口との間の賃貸借契約の約旨に違反するものとし、昭和二十五年六月十九日本訴において契約解除の意思表示をしたから、この契約は同日を以て解除されたと主張するから次にこの点について考えよう。原告主張の日に右のような契約解除の意思表示のあつたことは記録上明かであるが、被告山口から被告合資会社及び被告株式会社に対する轉貸について原告の承諾があつたことは前段に判示した通りであるから、問題は昭和十九年十二月一日から昭和二十一年五月三十一日迄の地代を六箇月分宛持参前拂せず、又坪三十五銭支拂うべきを坪三十銭宛しか支拂わなかつたことが契約解除の理由となるか否かという点に帰着する。成程成立に爭いのない甲第一号証(公正證書正本)の記載によれば賃借人が賃料の支拂を一度たりとも遲滯したとき、その他約旨に背いたときは賃貸人から直ちにこの契約を解除せられても異議なき旨が約定されているが、思うにこれは賃貸借関係を継続することを不可能ならしめる背信行爲を掲げたものであるから、形式的に約旨に違反する行爲であつても、それが賃貸人との信賴関係を破る程度にいたらないものは茲に含まれていないと解すべきところ、先ず持参前拂の点については、公正証書面はともかく事実上原告からの集金に應じて支拂われて來た当事者間従來の関係と、おそくも当該期間の末日までには原告からの請求に従いその支拂がせられていることとを斟酌し、次に賃料金額不足の点について、その金額を記載した公正証書正本(甲第一號證)が原告に交付されているにもかかわらず、原告の催告自体が既に不足した金額によつて行われていたということを考慮に加えるならば、右の事実関係の下におけるこれらの約旨の形式的違反は未だ賃貸人との信賴関係を破る程度にはいたらないものであり、従つて契約解除の理由とならないものと解すべきであるから、原告の右契約解除の意思表示はその効力を生じないものといわなければならない。」